最低賃金を引き上げるとどうなるか(労働市場)①
今回は、この民進党の批判について、経済学的に検証してみましょう。
■賃金や失業は労働供給と労働需要で決まる
経済学では図1のように、労働市場を労働供給と労働需要から考えます。

労働供給曲線とは労働者側の話で、今の実質賃金の下で働きたい人の数を表します。労働供給曲線は右上がり、つまり実質賃金が上昇すれば求職者が増えることを示しています。賃金が高ければ働こうかなという人が増えるということです。たとえば今まで主婦であった人がパートにでるといったことが典型的です。
なお労働供給曲線が右側で垂直の直線になるのは国内の求職者数(労働者数)には限りがあるからです。
一方、労働需要曲線とは企業側の話で、今の実質賃金の下で雇いたい人の数を表しています。労働需要曲線は右下がり、つまり実質賃金が低下すれば求人数(=実際の雇用者数)が増えることを示しています。
なお実質賃金とは「名目賃金(額面の賃金)を物価水準で割り引いたもの」(名目賃金÷物価水準)です。
労働供給と労働需要が折り合うところで均衡実質賃金(W*)が決まります。この場合、「労働供給=労働需要」ですから、現在の賃金の下で働きたい人がすべて働けている、つまり失業(正しくは非自発的失業)は存在しません。
実質賃金が図のW1の場合、「労働供給>労働需要」ですから人手余り、つまり失業が存在します。「労働需要>労働供給」であれば、人手不足ということになります。
■最低賃金を引き上げれば失業は増える
日本は「労働供給>労働需要」の状態ですから、実質賃金がW1の状態を起点に考えてみましょう。
ここで実質賃金をW2に引き上げるとどうなるでしょうか。労働供給が拡大する一方で労働需要は減少するので、失業は拡大します。これは不況下で顕著に見られます。
旧民主党時代(2010年)の最低賃金の大幅な引き上げがこれにあたります。2009年の失業率は5.3%と高い状態で前年比2.4%の引き上げであり、その結果、就業者数は減少傾向が続きました。
民進党は旧民主党時代のほうが実質賃金が高かったと主張していますが、その代償として高い失業水準があったのです。
【参考】
『マンキュー経済学 II マクロ編(第3版)』N.グレゴリー マンキュー著 東洋経済新報社
『日本の解き方/高橋洋一/「最低賃金1000円」の目標 枝野氏は「民主党は正しかった」というのだが…』