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歪曲された歴史(世界大恐慌に見る経済政策②)

日銀の国債直接引受までやらせたのですから、今の財政タカ派(財政均衡主義者)から見れば高橋是清の積極財政はまさに狂気の沙汰で、現に高橋財政を否定的に捉えています。それでは高橋財政は効果がなかったのでしょうか。


■神業的な回復を見せた日本

高橋是清の積極財政により、日本の実質経済成長率は1931年の0.43%から、1932年には4.4%、翌1933年にはなんと10%へと急回復を遂げます。急回復を見届けた高橋は、今度はインフレを回避するために、1934年以降は財政支出を絞り、陸軍からの軍事費拡張要求を拒否するようになりました。これが軍部の一部青年将校の怒りを買い、1936年の226事件での暗殺につながります。

超デフレからの脱出を図るとは言え、これだけの積極的な財政・金融政策を行えば、逆に超インフレになってもおかしくはありません。しかしながら、物価上昇率は約2%に抑えられていました。

これは最初は日銀が国債を引き受けましたが、適度に国債を市場に放出して貨幣供給量を調節したからです(売りオペ)。その結果、高橋が蔵相在任中の4年間で日銀の国債保有残高は約10%しか増えていません。

蔵相在任中の実質経済成長率は平均で約7%、物価上昇率は約2%というまさに神業的な鮮やかさです。


■大恐慌からの脱出速度

ここで当時の他国の経済パフォーマンスを見てみましょう。世界大恐慌後の金本位制からの離脱の早さにより、大きく4つのグループに分けられます。卸売物価指数の上昇率の1929年の水準を100とした場合、どれくらいデフレが進行し、その後回復したかを見ます(当時は消費者物価指数は集計されていなかった)。

<第1グループ>
そもそも金本位制に復帰しなかったスペイン、1931年以前に金本位制から離脱したオーストラリア、ニュージーランドなど。
1930年に95、1931年に90まで下がり、その後は1933年まで90弱まで緩やかに下がるもそれ以降はゆるやかに上昇し、1936年は93程度。
1
<第2グループ>
1931年に金本位制を離脱したグループで、日本、イギリス、ドイツ、スウェーデンなど14カ国。
1930年に88程度、1931年に78程度まで急激に低下、その後は横ばいないし緩やかに上昇し、1936年は83程度。

<第3グループ>
1932年から35年にかけて金本位制を離脱したグループで、アメリカ、イタリアなど4カ国が該当。
1930年に86程度、1931年に70程度までかなり急激に低下、その後も下落を続け1933年には60弱まで下がる。その後は上昇に転じ、1936年は72程度。

<第4グループ>
1936年に至っても金本位制を離脱しなかったグループで、フランス、オランダ、ポーランドの3カ国。
1930年に88程度、1931年に77程度、1932年に64程度までかなり急激に低下し、1935年には55弱まで下がる。その後は上昇に転じ、1936年は58程度。

金本位制からの離脱(金融政策の自由度の回復)が早いほど、デフレからの脱却が早く、かつ回復の程度も高いことが明確に分かります。

これまでの話を再確認すると世界大恐慌後の日本の経済政策は、井上財政という致命的な失政があったものの、高橋財政後は、先進国でもかなり高い経済パフォーマンスであったことが分かります。

国内経済の疲弊が軍部の台頭を招いたなどということは、まったくの嘘ということが分かります。なぜ誰でも確認できるデータを無視して誤りの主張を繰り返すのか、私には不思議なりません。

一方、アメリカはルーズベルト大統領の財政政策(ニューディール政策)が功を奏したような印象がありますが、日本よりもデフレが深刻化し、本格的な経済回復は第2次世界大戦まで待つことになります。

その理由は、アメリカのFRBが途中で金融引き締めを行ったからであることが、バーナンキやクルーグマンなどのアメリカ主流派の経済学者のコンセンサスとなっています。


■歴史は印象で作られる

私たちは中学や高校の日本史の授業で教えられていた内容や、テレビ番組、歴史小説で出来事や人物を評価しがちです。しかしながら、それは作者側の解釈やただの通説であることには留意する必要があります。経済について興味を持って学んでいると、言われてきたことがほとんどデタラメであったということは少なくありません。

テレビ番組の製作者も、歴史小説の作者も、あるいは経済史以外の歴史家も、決して経済学の知識に明るいわけではありませんから、きちんとしたデータで歴史を解釈しているわけではなく、単にイメージで解釈しているに過ぎないように思えます

たとえば高橋財政がこれだけのパフォーマンスをあげたのに、未だに「軍事支出を増大させて軍国化を進めた」だとか、「インフレを招いた」だとかといった誤った流布がなされているのは、歴史教育のせいもありますが、城山三郎氏の「男子の本懐」という小説の影響が大きいと思われます。

「男子の本懐」は反対派を押し切って金本位制への復帰に執念を燃やした濱田雄幸首相、井上準之助蔵相を礼賛する内容ですが、おそらく濱田首相も井上蔵相も軍事費の削減に積極的であったこと、欧米強調寄りの外交スタンスであったこと、さらにともに右翼の凶弾に倒れたという悲劇的な最後が好意的・同情的に捉えられたからだと思います。

一方で高橋是清はそれと対照的に捉えられ、たまたま関東軍が勝手に始めた1931年の満州事変勃発の時期とタイミングが合ったことから、本来の思想は無視され、軍国主義の手先のように短絡的に位置づけられてしまったのではないでしょうか。

言い回されたことですが、このことに限らず結局は私たち1人1人が通説に少しでも違和感を感じたら逆の見方ができないか意識し、自分で少し調べて見る、考えてみるというスタンスで臨まないと間違った知識を持ってしまうことになりかねません。


【参考】
『もうダマされないための経済学講義』若田部昌澄著 光文社
『「復興増税」亡国論』田中秀臣、上念司著 宝島社

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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