fc2ブログ

失業率の低下は、少子高齢化によるものか?②

■因果関係の条件

 

前回は、「完全失業率が低下している原因を少子高齢化(団塊世代の退職)に求めることには無理がある」ということを述べました。因果関係が成立するためには、次の3つが成り立つ必要があります。

 

<因果関係の条件>

共変の原則
もしXYの原因であるならば、XYは共に変化しなければならない。
時間的順序関係
もしXYの原因であるならば、XYより時間的に先に起こっていなければならない。
他の原因の排除
X
Yの原因と考えられ、さらにX以外にYの原因を合理的に説明できるものが何もない場合にのみ、XYの原因と認められる。

 

 

経済事象の考察は、クリティカルシンキングの良い練習になります。因果関係の条件に沿って、「少子高齢化(団塊世代の退職)と失業率低下」の関係を検証してみます。

 

 

■時系列がおかしい

 

「共変の原則」から考えてみます。少子高齢化はほとんど毎日のように報道されていますから、何かあるとすべて少子高齢化に結びがちです。しかしながら、日本の高齢化は、既に1970年頃から始まっています。その間、完全失業率は高くなったり低くなったりしているのですから、共変の原則は成り立ちません。もし少子高齢化が完全失業率低下の原因なら、旧民主党政権時代にも完全失業率は低下していないとおかしいでしょう。

 

次に「時間的順序関係」を考えてみましょう。団塊世代の60歳の退職時期は2007年であり、退職後の継続雇用期間が切れるのは2012年です。これにより、労働力の減少や企業内の技術・ノウハウの継承の断絶など、様々な問題が生じるのではないかと懸念され、いわゆる「2012年問題」と言われました。つまり団塊世代の退職はもう5年も前の話で、現在の労働市場に大きく影響を与えていると考えるのには無理があります。

 

 

■失業率は経済成長でほぼ決まる

 

最後に「他の原因の排除」の観点から考えてみます。実は失業率は、ほぼ経済成長率のよって説明できることが明らかなのです。「経済成長率が高ければ(低ければ)失業率は低い(高い)」という関係を、経済学ではオークンの法則といいます。日本の場合、経済成長率と前年の失業率との差の相関係数は0.7(失業率の変化は経済成長率で7割説明できる)という指摘があります。

 

過去のデータで人口構造が失業率の大きな影響を与えるというエビデンスは一切ありません。結局は緩やかな景気回復で失業率が低下傾向になったに過ぎません。

 

「経済成長率が高ければ失業率は低い」というのはまったくもって当たり前の話にもかかわらず、つい印象が強く思い出しやすい少子高齢化に原因を求めてしまうというのは、行動経済学でいうところの「利用可能性ヒューリスティック」ではないでしょうか。

 

利用可能性ヒューリスティックとは、「取り出しやすい記憶情報を、優先的に頼って判断してしまうこと。 記憶に残っているものほど、頻度や確立を高く見積もる傾向。 探せる記憶だけが事実になること」を言います。

 

報道や識者のコメントを見ても、「時間的順序関係が違う」「本当にデータを見ているのか?」と思ってしまうことはしばしばあります。利用可能性ヒューリスティックに陥ることなく、因果関係の3条件に照らし合わせて検証したいものです。

 

 

【参考】

『クリティカルシンキング 入門篇』E.B.ゼックミスタ、J.E.ジョンソン著 北大路書房

『日本を救う最強の経済論』高橋洋一著 扶桑社

スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
連絡先:rsb39362(at)nifty.com
※ (at) は @ に置き換えて下さい
(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR