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経済学を学ぶ意義⑤(経済歴史戦2)

日本の歴史上、私が個人的に考える最も偉大な政治家の2人めは、田沼意次です。現在では田沼の評価は荻原重秀ほどボロカスではありませんが、それでも専横政治を行なった収賄政治家という誤ったレッテルで語られることも少なくありません。

私が子供の頃に読んだ歴史漫画でもそのような描かれ方でしたし、予備校の日本史の講師もそのように言っていた記憶があります。

 

 

■田沼意次は近代経済社会の先駆者

 

田沼意次が側用人・老中として幕政の実権を握っていたのは、徳川吉宗の享保の改革の後、1767年から1786年の頃です。一旗本から側用人、そして大名にまで取り立てられ、まさに出世街道驀進といったところで、側用人から老中になった初めての人物です。

 

田沼の行った・行おうとした政策は、次のとおりです。

・株仲間の奨励、専売制の実施

・印旛沼・手賀沼の開拓

・長崎貿易の奨励、俵物などの商品作物の育成し、海外物産・新技術の導入、ロシアと交易の企図

 

端的に言えば、殖産興業化と貿易政策による重農主義から重商主義へのシフトとなります。ご存知のとおり初期を除いて江戸時代のほとんどの時期において、幕府の財政は赤字状態で、財政再建が課題でした。それまでの幕政はとにかくコメを増産して年貢米を増やす政策が中心でしたが、当然ながらコメを増産しても価格が暴落してしまったら意味がないわけで、コメを主体にした経済は極めて不安定なものでした。実際に米価の変動に苦労した徳川吉宗は米将軍の異名を持っています。

 

こうした状況を踏まえ田沼が考えたのはコメ中心の経済から貨幣経済への移行でした。また享保の改革以来、頻発する農民一揆を裁定した経験から、それまでの増税一本槍ではなく、経済活性化による増収をねらったと考えられています。商業経済と殖産興業により商人や農家の所得を増やせば税収増加が可能になります。

 

実際に幕府の財政は急速に改善し、幕府の備蓄金は5代将軍綱吉以来の最高となりました。日本研究者であり、イエール大学教授であったジョン・W. ホールは、田沼を「近代日本の先駆者」と評価しています。田沼意次の政策からの教訓は、財政再建は増税ではなく増収によるべきであるということでしょう。

 

 

■歴史の評価は次の権力者が作る

 

田沼の評価が失墜した大きな原因は、将軍による厚遇のもとでの異例の出世と、実際にある時期にはかなりの権勢を握ったことによる嫉妬やねたみが大きいと考えられます。特にその後の寛政の改革で有名な松平定信の田沼への憎悪は激しいものがあり(白河藩の養子に出されて将軍への道が閉ざされた恨みとも?)、彼ら反田沼派によって収賄政治家のレッテルが貼られていきますが、実際の田沼はほとんど財産がなかったとも言われています。

 

また田沼時代は商業主義により賄賂が横行していたと語られることが多いですが、これもはっきりとした根拠があるわけではありません(江戸時代全体を通じて賄賂は横行していた)。歴史教育者は「資本主義=賄賂社会」というレッテルを貼りがちですが、独裁国家や貧困国を見てわかるとおり、経済が停滞している国の方がむしろ賄賂や血縁などによって閉鎖的に人材登用が行われるわけです。

 

 

■日本の歴史教育は倹約思想

 

残念ながら田沼の失脚後、日本経済はまた重農主義に回帰し、幕府の財政が再建されることはありませんでした。極めて開明的な経済観を持った人物がここまで評価が低いとなると、私の個人的な印象かもしれませんが、どうも日本の歴史教育は、「重商主義=金儲け主義で良くない」という倹約思想のようなものがあるような気がします。

 

新井白石や松平定信といった倹約一本槍で、実際に政策的には失敗した政治家がどこか同情的に捉えられえている気がしますが、彼らのやったことは超デフレ政策で経済政策的にはほとんど評価できないのですが・・・

 

こうした反経済政策思想、倹約思想は現代社会でも根強いものを感じます。「日本はもう成長できないので、今の所得の範囲で我慢すべきだ」「経済政策は金持ちだけ得をする」といった短絡的な主張がその典型例です。

 

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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