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労働分配率の低下は悪いことなのか?

■低下し続ける労働分配率

 

財務省が9月3日に発表した二〇一七年度の法人企業統計の結果を受けて、「企業が稼いだお金のうち、従業員の給与・ボーナス、福利厚生に充てられた割合を示す『労働分配率』は66・2%と前年度の67・5%から下落」し、企業の利益の伸びとは対照的に、賃上げが進んでいない実態をあらためて浮き彫りにしたとの報道が今月初め新聞各社よりありました。

 

「儲けているのに労働者の賃金に廻さないのはけしからん」という論調が以前目立ちますが、相変わらずの表面は的な論調で、メディアの経済リテラシーのレベルをうかがい知れてしまいます。

 

 

■労働分配率はどう変化するか

 

労働分配率は、リーマン・ショックの起きた08年度に近年のピークの74・7%に達した後、ほぼ一貫して下落しています。これをもって、アベノミクスは労働者の利益に還元していないという批判があります。

 

しかしながら、労働分配率は、不景気には高まり、好景気には低下するものなのです。

 

不景気の場合、企業利益が減少する中で、賃金は維持される傾向があります。これは、労働組合の存在により、企業側は思い切った賃下げや解雇ができないこと、賃金を下げると社員のモチベーションが下がることなどが理由とされます。労働分配率は、単純にいえば「人件費/営業利益」なので、分子が維持され、分母が下がれば上がることになります。

 

一方、好景気の場合、企業の営業利益が増加する一方で、それをすべて労働者に分配することはありえません。先の見通しが好転したことから、将来の成長に向けて設備投資に資金を廻すからです。

 

「内部留保するくらいなら賃金に回せ」というのは、「将来なんてどうでもいいから、今カネよこせ」といっているに近いノリともいえます。

 

■日本の労働分配率の推移

 

日本の労働分配率の推移を見てみましょう。

 

まず、80年代後半のバブル経済期では、労働分配率は低下して、67%近くまで下がり、バブル崩壊後は75%を超えるまで上昇しました。

 

2000年代に入り、小泉・第1次安倍政権下の緩やかな景気回復では、再び再び下降して70%近辺に達し、リーマン・ショック後の景気低迷で75%まで上昇しています。

 

そしてアベノミクス以降は下落し、現時点での67・5%水準になっているわけです。つまり、労働分配率の低さは景気のよいことの証左なのです。

 

 

【参考】

労働分配率の推移(資本金規模別) - 内閣府

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非公開コメント

日頃から当ブログを拝見させております。
いつも非常に興味深い内容なのですが、今回の記事には意見交換をしたく思い、コメントを投稿させていただきました。

まず今回の記事は、人件費/営業利益という数式において営業利益は可変である一方で人件費は(いかなる状況でも)固定されるという前提があると感じました。それならば労働分配率と営業利益は反対の動きとなるのは当然です。


また、内部留保の"すべて"が労働者に分配されるのは有り得ないとの記述がありますが、すべてが分配されるのは有り得ないですよね。しかし増えた内部留保のなかで少しでも多くの金額を労働者に分配していく姿勢こそがいまの日本に必要と思うのですがいかがでしょうか?


そして長年に渡って、大企業は内部留保を溜め込んできましたが、企業の設備投資ならびに基礎研究などへの投資は十分に行われているのでしょうか?(私は不勉強でわかりません。ご教示お願いします

以上3点が気になった記載でございます。
(日本を含め)労働生産性は各国で上がっていると聞きます。しかし他国がその上昇に合わせて労働分配率があがっているのに、日本は逆の動きをしていると聞いたことがあります。

庶民のルサンチマンなのかもしれませんが、私は基本的に「国民の可処分所得を増やし、日々の暮らしに余裕を持たせる」ということがいまの社会に一番大切であると考えています。
今回の記事の趣旨はタイトルから"善悪論"ですよね?ですので、"べき論"で語らせていただきました。


Re: タイトルなし

いつもご覧いただきありがとうございます!。
①世の常としてローリスクローリターン、ハイリスク・ハイリターンがあり、大企業正社員は収入および雇用が確保されているので前者になります。よって、不景気でも収入が下がらないなら好景気でもがまんしてもらうしかないというのが企業側の本音ということかもしれません。

「内部留保の"すべて"が労働者に分配されるのは有り得ない」というのは確かに極論でしたね。ただメディアの薄っぺらい議論を聞いていると、「不景気でも給与減らすな、好景気ならよこせ」と言ってるしか思えない気がしたもので。
それやると新卒とか非正規が思い切り割食うので。
私も賃金を上げることが基本賛成です。ただし、日本は社会主義国ではないので、個々の企業の判断に任せるべきかと。しぶい賃金しか払わないなら、優秀な人間はやめて衰退するでしょうし。結局、景気が悪いとブラック企業のほうがもうかったりしますが、景気が良いとブラックだと人が集まらず衰退するだけ、景気で企業の判断を迫ればよいのではないかと考えます。
「べき論」自体は否定しませんが、「べき論」だけでも動かないので、理想の状態に近づく環境整備(制度設計)をしてしまうという考え方です。

企業の設備投資ならびに基礎研究は、半年くらい前からようやく上昇に転じてますが、それまではずっと緊縮です。これは見通しが悪かったので積極策がとれないこと以外に、高人件費体質で金をひねり出せなかった面もあるのではないかと思います。他国の状況は確認しておりませんが、日本ほど雇用が守られていない国であれば、不景気にはリストラして労働分配率が低くなり、景気回復時にはもとの水準に戻すので上がる(上昇というより回復)ということかもしれません。

ちなみに日本の労働分配率のデータは、下記が参考になります。
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/1th/shiryo4-3.pdf

引き続き宜しくお願い致します、


突然のコメントに対して、ご丁寧な解説どうもありがとうございます。

先生は、経済原理に任せて各々の企業が賃金を決定すべきとおっしゃっているように理解しました。

一方で(先生もご指摘の通り)、政策上、労働者が過度に保護されている(社会主義的と言うのでしょうか、、)側面もありますよね。

この両極端な社会の方向性が、私のモヤモヤ感の原因なのかもしれません。。

とにかく、お返事どうもありがとうございます。 あまりコメントがしつこくても申し訳ないのでこのトピックに関する最期のコメントにさせていただきます。


追伸。 個々のトピックに関するものだけでなく、先生がもし"総理大臣"だったらどんな政策に優先して取りかかるかといったような、社会全般に対しての記事を読んでみたいです。もしお時間があれば、、、

貴重なお時間ありがとうございました。

No title

ご丁寧にありがとうございます。
池上問題が話題になっていますが、私も高橋洋一氏や安達誠司氏のパクリですから(笑)。
引き続き宜しくお願い致します。
プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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連絡先:rsb39362(at)nifty.com
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(お急ぎの場合は携帯電話までご連絡ください)

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