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誤った二分法③

これまでややビジネスというより一般論や時事問題に傾斜していましたが、今回は少し経営戦略の内容を取り入れてみます。
次の2つの文章を読んでみてください。


①「ビジョナリー カンパニーは進歩を促す強力な仕組みとして、ときとして(社運を賭けた)大胆な目標を掲げる。」(「ビジョナリー カンパニー」ジム・コリンズ、ジェリー・I. ポラス著 日経BP社)

②「成功の確率を高めるような極端な戦略は、失敗の確率も高めるのだ。」(「戦略のパラドックス」マイケル・E・レイナー著 翔泳社)


二分法とは、「YESかNOか」「AかBか」といったように、「きっちり白黒をつける (白黒思考)こと」を指しました。
さて冒頭に挙げた2つの記述は、分かりにくいのですが、反対のことを意味」しています。 レイナーは、その著作の中で「ビジョナリー カンパニー」の批判をしているのですね。では、補足の説明を加えてみます。


①ビジョナリー・カンパニーとは、「未来志向であり、長年に渡り尊敬を与えつづけ、大きなインパクトを与え続けている企業(≒長期にわたり成長し続けている企業)」のことです。

著者は、「社運を賭けた大胆な目標(あるいはミッション)を掲げ、その実現に全力投球することが、成長を生む」としています。

創業期のソニーのトランジスタ・ラジオや、ウォークマンなどがその例にあたるでしょう。小説やドラマ、映画でもお馴染みのパターンですね。「同業他社と差別化しなくては(あるいは同じことをしていては)成長できないし、そのためには全力投球しなくては大胆な目標をクリアできない」、十分に納得できる話です。


②一方、レイナーは、要約すると次のような批判を加えています。
社運を賭けた大胆な目標とは、明快で後には引けない心理的なコミットメント(かかわり、没頭)であり、一度決めたら組織全体の活力と決断力が集中的に投入される。

最も利益を生む戦略とは、大胆な目標に基づいて企業を差別化またはコストリーダーシップのポジションに傾注させる、極端な戦略だ。こうした極端なポジショニングを取る企業は、より大きな戦略的リスクにさらされるため、破綻する可能性も高い。したがって成功する見込みの最も高い戦略は、失敗する見込みも最も高い。これが戦略のパラドックスだ。

つまり、「社運を賭けた大胆な目標に基づく差別化行動は、リスクが高い」と言っているわけです。ソニーは、家庭用VTRの規格競争で負けたことを教訓に、MD(ミニ・ディスク)の開発・販売を推進したが、期待した成果を得ることができなかったことを例に挙げています。MD(ミニ・ディスク)は、日本ではそれなりに普及したが、インターネット環境の急速な進展から、北米などではほとんど普及しませんでした。


では、どちらが正しいのでしょうか?

そうです。「どちらが正しいか」を求めることは、誤った二分法なのです。どちらも妥当性はあるからです。トートロジー(同義語反復)的ですが、レイナー自身が認めているように、両方妥当であるからパラドックスだと言えるでしょう。

ベンチャーの場合、まずは社運をかけた大胆な目標を掲げ、その実現に向けて全力投球しなければ、そもそも生存できないでしょう。ただし、ある程度の規模の企業が1つのことに経営資源を集中投下するのはあまりにリスクが高すぎる。これは「1つのカゴの中にタマゴをすべて入れるな」という分散投資を薦める格言にも表されています。シャープの経営不振の理由として、液晶事業への特化を指摘されることが多いですね。

結局は、「個々では努力を集中するのは大事だが、全体のバランスを取れ」というごく当たり前の結論に落ち着くわけです。

複数回に渡って二分法について考えてきたのには、理由があります。
唯一絶対の解など無いわけで、それぞれ一長一短あるわけです。それぞれの長短を踏まえながら、「ケースバイケースで選択する」「それぞれ補完し合いながら全体での意思決定を行う」というのが正しい姿勢なのです。
経営学者間での論争を見ても、ほとんどは二項対立(どちらの主張がより妥当か)というよりも、補完関係にあるように思えます。

当ブログでも、いろいろな考え方や主張を取り上げていきます。場合によっては、 「結局、何が正しいの?」「何が言いたいわけ?」という印象を持たれるかもしれませんが、是非、このことを念頭に置いて頂きたいと思います。それが正しい知識への接し方だと思います。

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
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