成長戦略の経済的効果②
■成長戦略の具体的な中身
前回触れたように、成長戦略は、潜在GDP(潜在総供給力)を上げるための政策ですから、生産性の向上につながるものはすべて該当します。規制緩和(民間の活力を活用した生産性の向上)、制度改革、働き方改革、AI活用、TPP(海外の活力の活用)などです。
個々の企業レベルや個人レベルで生産性の向上に努めるのはまったく妥当なことですが、政策レベルではそうとは限らないことは前回触れたとおりです。
■規制緩和の経済的効果
ここでは成長戦略の1つである規制緩和について取り上げてみます。結論からいえば、規制緩和は単独の産業の活性化につながることはありますが、全体の潜在総供給力の向上にはほとんど影響がないというのが実情です。
現日銀審議委員の原田泰氏は「第3の矢の成長戦略とは、1つの矢ではなく、無数の吹き矢の集合体のような政策である」と述べています。複数の規制緩和や制度改革を行って、ようやく効果が出始めるというレベルです。
「第3の矢が大事」という識者が多いですが、実際にその経済的効果を定量的に示したデータはあまりありません。その中で教育拡充(学力トップレベルの向上)やTPPの効果を試算した森川氏(2015)によれば、「10年以上のスパンでGDPを1.5%押し上げるレベル」であり、「政策で潜在成長率を大幅に引き上げるのは容易なことではない」と結論づけています。
■規制緩和への政治的抵抗
さりとて明らかに非効率なことを放置すべきではなく、私としても規制緩和を進めるべきだという立場です。
規制緩和というと、近年では加計学園騒動が思い起こされます。長年に渡り文科省が獣医学部の認可どころか、申請させもしないという行政指導で、実に52年も新設学部がないという異常事態が続いていたことが一般国民にも知れ渡りました。
国家戦略特区ワーキンググループ議事要旨を見ると、文科省の執拗な抵抗が見て取れます。本ブログでも取り上げたのでご参照ください。
http://bgeducation.blog.fc2.com/blog-entry-370.html
このように規制緩和は所管省庁の抵抗がすさまじく、さらに既得業者、それにくっついている族議員の激しい抵抗があり、進めることは容易なことではなく、そういった政治的な問題からも実際にすぐに効果を期待することは現実的ではないと言わざるを得ません。
【参考】
『アベノミクスの真価』原田泰、増島稔編 中央経済社