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成長戦略の経済的効果⑤

前回までの議論を踏まえると、確かに「労働の生産性を上げると総需要が上がってGDPが上昇し、物価が上昇して脱デフレが実現する」という主張には合理性があります。

なんとなく労働生産性を上げることは良いことだから、きっとGDPも上がるのだろうと思いがちですが、実際はどうなのでしょうか?

 

 

■現在の日本では「古典派の第一公準」は機能しない

 

古典派の第一公準を振り返ってみます。「労働者の生産性(限界生産力)が上昇すれば、追加で人を雇ったら生産量が大きく増えるので、それが販売されたら大きく収入が伸びるのだから、たくさん人を雇ったほうがよい」ということでした。つまり「生産されたものはすべて販売される」ということが前提になっています。

 

しかしながら、現在の日本のように、国内市場が成熟化している状況では、「生産されたものはすべて販売される」という前提が成り立ちませんから、古典派の第一公準が当てはまる状況ではないといえます。

 

前回、触れたように、高度経済成長においては、労働者の生産性(限界生産力)が上昇することで雇用が増加し、それが設備投資の増加と実質賃金の上昇をもたらし、消費が増加する」という好循環があったわけですが、これは国内市場が拡大するという前提があったからです。さらに付け加えれば、そもそも政府の財政政策と日銀の金融政策によって、需要が拡大したということが、前提条件としてあります。

 

 

■生産性が上がっても賃金は低下する

 

また素朴に「労働者の生産性が上がるとしたら、企業としては追加の雇用を控えるのでは?」という疑問もあります。現有の人数でも高い生産量が実現できるとしたら、新しく人を雇う必要はないし、場合によっては、人を減らすということも考えられます。

 

そうなると、失業率が上がるので、1人あたりの生産性があがっているのに、労働市場全体では、賃金が低下することになります。賃金が下がれば消費が減少し、GDPは増えずに、物価は低下することになります。

 

特にデフレが長く続き、企業が雇用に慎重になると、このような傾向が強くなります。実際に2000年代以降の日本を見ると、労働生産性は上がっているにもかかわらず、名目賃金が下落している年が多く見られます。それに応じて物価も上昇せず、デフレ経済が長引きました。

 

それは企業が省力化投資や生産プロセスの見直しを進めた結果、労働者1人あたりの生産性が上昇する一方で、正社員の賃金を抑制したり、非正規化を進めた結果、賃金コストを安く抑えてきたからです。

 

「1人あたりの生産性が上がれば、それだけ賃金が上がる」この当たり前のような話が、実は当たり前ではないというのが実証的に示されているのです。もし1人あたりの生産性の上昇を賃金の増加やGDPの増加につなげたいのであれば、総需要を増やすことが必要であり、そのためには政府や中央銀行による財政政策、金融政策が求められます。

 

 

【参考】

『アベノミクスの真価』原田泰、増島稔編 中央経済社

 

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プロフィール

三枝 元

Author:三枝 元
1971年生まれ。東京都在住。読書好きな中年中小企業診断士・講師。資格受験指導校の中小企業診断士講座にて12年間教材作成(企業経営理論・経済学・組織事例問題など)に従事。現在はフリー。
著書:「最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク~手っ取り早くできる人になれる」ぱる出版 2020年2月6日発売
「中小企業診断士のための経済学入門」※絶賛在庫中!
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