コミットメントと一貫性の原則②
前回に続き、「コミットメントと一貫性の原則(人は自身の行動、発言、態度、信念などに対して一貫したものとしたい(あるいは一貫していると見られたい)いう心理)」の例を挙げてみます。
■軽い気持ちで同意をしてしまうと、心理的に束縛される
社会心理学者のスティーブン・H・シャーマンは次の実験をしました。
インディアナ州ブルーミントンの住人何人かに、調査の一環だと言って電話をかけ、「もし米国ガン協会のために3時間募金活動をしてほしいと頼まれたらどうしますか?」と質問しました。調査員に冷淡だと思われたくなかったのか、多くの人が喜んで協力させてもらうと答えました。その数日後に米国ガン協会の代表が電話をかけ、近隣をまわって寄付をあつめてほしいと頼んだところ、進んで協力してくれた人は通常の7倍にものぼったのです。
募金活動をするのは面倒なはずです。一度、軽い気持ちで同意をしてしまうと、たとえそれに法的な拘束力がなくても、心理的に束縛されることになります。
■機嫌を聞くだけで、頼みごとが受け入れられる
消費者行動の研究者のダニエル・ハワードは、次のような実験を行いました。
<実験1>
テキサス州ダラスの住民に電話をかけ、「飢餓救済委員会の代表がお宅にうかがって、クッキーを売らせて頂いてもいいですか。その売上は、飢えに苦しむ人々への食事代として使われます。」と頼み込みます。
<実験2>
相手が電話に出たら、「今日のご気分はいかかですか?」とたずね、その答えを聞いてから、上記の頼みを切り出します。
実験2では120人のうち108人が「元気ですよ・「上々です」「まずまずです」といった肯定的な返事をしました。次に、気分を聞かれた人の32%が、クッキーの訪問販売を受け入れました。これは実験1のただ頼まれただけの場合のほぼ倍の成功率です。そして。訪問販売を受け入れた人の89%がクッキーを購入したのです。
「自分はいい状態だ」と何の気なしに答えたとしても、自分が恵まれた状況にいることを自ら認めたことになります。その結果、ケチ臭く思われるのが何とも気まずくなるので、相手の頼みを断れなくなるのです。
相手に何か頼むときは、相手の機嫌をたずね、「よい」と答えたときに限ります。
【参考】
『影響力の武器 第二版』ロバート・B・チャルディーニ著 誠信書房